谷口前理事長ご挨拶

理事長退任のご挨拶

私は本年3月1日をもちまして社団法人日本仲裁人協会の理事長を辞任させていただきました。長年にわたるご支援への感謝を込めて一言ご挨拶を申し述べます。

本協会は、一連の司法制度改革のなかで、長年の懸案であった仲裁法が今日の世界水準であるUNCITRAL模範法に依拠する新法として生まれ変わり、また、裁判所による調停に独占されていた感のあったあっせんんや調停による紛争解決をひろく民間の団体に解放したいわゆるADR基本法が制定され、社会に存在する諸々の紛争がそれぞれの特質に適合した形でより適切に解決されるための制度が整ったことに呼応して、これらの紛争解決方式についての一般の理解を深め、かつこれに従事する人々の育成を目指して2003年に任意団体として設立されました。私自身はこれに直接関わっておりませんでしたので、その経緯については詳しくありませんが、弁護士会、弁理士会、司法書士会、法務省等の強力な支援があったと聞いております。私もその後顧問をお引き受けし、講演などさせていただきましたが、会員の皆様の熱い思いをこの身で感じたことが記憶に残っております。本会を社団法人とすることは当初からの予定であり、2005年に法務省を監督官庁として実現することとなりましたが、これを待たず初代理事長であった澤田寿夫先生が辞任を希望されたため、私が後任をお引き受けすることになりました。

それから既に7年以上が経過し、その間役員の皆様、歴代の事務局長及び事務局次長の皆様に助けられながら今日まで何とか職に留まってまいりましたが、その間、当初の目標の達成が極めて困難であることを痛感する日々でありました。本会が設立の眼目とした仲裁人養成のための研修や検定は我が国における仲裁の利用が相変わらず低迷を続けている客観情勢なかで当初の求心力を失いつつあるように見受けられます。1980年代バブルの頃に日本に熱い目を向けていた欧米の仲裁専門家の目は韓国やシンガポールに奪われ、国内商事仲裁は未だに全く見られない状況であります。他方、当協会のいま一つの活動対象分野であるあっせん・調停は世界中から日本のお家芸と見られていたに拘らず、ADR基本法のもとで認証を受けて発足した多数の民間ADR機関も裁判所の調停の盛行の前にいまひとつ存在感を示せない状況が続いております。

紛争解決はそれ自体が社会的営みであることを考えれば、社会そのもの、つまり個人や企業の行動様式が徐々にしか変わりえないものであるならば、そこでの紛争処理方式も一朝一夕に劇的な変化を遂げることは期待できません。当協会としては気長な対応の覚悟を新たにするとともに機会をとらえて適切に社会に働きかける活動を続ける必要があります。本会はさらなる発展への基盤をより強固なものとするべく、近時の法人制度改革における選択肢のなかで条件が厳しい公益社団法人に改組することを敢えて選び、着々と準備を整えてまいりました。そして、2014年1月から新公益社団法人として発足できる明確な目途が既についております。この時期に役員改選期を迎え、私は自分の年齢のことも考慮し、この際来年からの新体制を担っていただける方に理事長を交代しておくことが適切であると考え、去る3月1日の総会において新たに成立した理事会において辞意を表明しましたところ皆様に受け入れていただき、新理事長として川村明氏が選出されました。川村氏は周知のように昨年末まで強大な世界的組織である国際法曹協会IBAの会長職を担われた国際的に極めて著名な法律家であり、また国内最大級の法律事務所を築かれた実力者でもあります。

このような強力な新理事長のもとで、当協会が飛躍的な発展を遂げるであろうことを願い、またそうなることを確信しております。川村新理事長に対し変わらぬご支援をお願いする次第であります。

末筆ながら在任中の私を支えていただいた歴代の事務局長である矢吹公敏、出井直樹、森徹の各弁護士、及びその下で日常業務を滞りなく遂行していただいた大勢の事務局次長のみなさんに心から謝意を表します。

2013年4月吉日
社団法人日本仲裁人協会
前理事長 谷口 安平